総務省の統計によると、2026年に新成人となった人口は約109万人。統計史上最少だった2024年の約106万人よりは多いものの、20年前、2006年の約143万人、さらに20年前の1986年の約182万人と比較しただけでも、いかに日本の働き手が減少したかがお分かりいただけるでしょう。
こうした事情もあり、今、これまで「人の目」で守ってきた日本の製造品質が、維持することすら困難になっています。
長年の現場経験の中で磨かれた熟練検査員の「目利き」は、微細な色の変化、わずかな形状の歪み、触感では分からない表面の異常などを判断できる、まさに職人技と呼ぶべき素晴らしい技術です。しかし、この卓越した技術を次世代に継承するには長い育成期間が必要で、さらに、一人前になる前に離職してしまうケースも昨今は少なくありません。そして、その代替となる人員もすぐには見つかりません。このように、熟練工が持つ膨大な知見が、その人とともに現場から失われてしまうという属人化リスクが、昨今の世情により顕在化してしまった、という状況にあるのです。
では、こうした貴重な技術を会社の資産として守りながら、人口が減り続ける中でも品質を維持・向上させるにはどうすればよいのでしょうか。
従来の目視検査には、避けられない3つの構造的な問題があります。
第一に、肉体的・精神的な限界によるヒューマンエラーです。人はみな集中力の維持には限界があり、疲労による見逃しなどの事態は避けられません。日々単調な検査作業を繰り返す中、どれほど優秀な検査員でも判断精度は時間により上下してしまうものです。
第二に、基準のブラックボックス化です。同じ製品を見ても、検査員Aは合格、検査員Bは不合格と判断するケースや、「これくらいならOK」という個人ごとの微差が後工程でのトラブルを招いたり、逆に本来は問題ない製品まで弾いて歩留まり低下を招いたりするケースは、多くの製造現場で発生してきた事態でしょう。ベテラン検査員の判断基準は確かに存在するものの、それが個人の感覚に留まっているため、組織として統一された品質基準を確立することが困難になっているのです。
第三に、教育コストの垂れ流し問題です。一般的に、一人前の検査員を育てるには最低でも3〜5年を要すると言われており、その間の教育担当者の工数、育成中の不良品流出リスク、即戦力化するまでの生産性損失を考慮すると、一人あたりの育成コストが数百万円規模に達することも珍しくありません。さらに深刻なのは、せっかく育成した人材が数年で転職してしまうケースです。この育成投資回収前の離職というリスクが、多くの製造現場を悩ませています。
上記のような、製造現場の属人化を理由に起こるさまざまな課題や問題を解消するために、3つのアプローチが考えられます。これは品質維持や向上の答えとなるAI戦略と言えます。
AI(良品学習)を活用し、熟練者が無意識に行っている「良品の揺らぎ」の許容範囲をデータ化します。製造現場では、完全に同一の製品は存在しません。わずかな色むら、微細な傷、形状のバラつき。ベテランは、この「許容できる揺らぎ」と「品質に影響する異常」を瞬時に見分けています。この判断基準は、長年の経験の中で無意識に形成されたものであり、本人さえも明確に説明できないことが多いのです。
しかし、AIにベテランの判断結果を大量に学習させることで、その「暗黙の基準」をデータとして再現できます。これにより、「人の判断」というノウハウを会社の恒久的な資産として保存することが可能となるのです。
しかしながら、AIは万能ではなく、実際の精度を左右するのは計算力よりも、「入力される画像の質」です。どれほど高性能なAIアルゴリズムを用いても、ぼやけた画像、照明ムラのある画像では正確な判定は不可能です。人間の目なら多少条件が悪くても対象物を認識できますが、機械は与えられた画像情報しか処理できません。
つまり、誰が見ても、どのAIが判別しても明白な画像を撮る「光学技術」が、属人化を物理的に解消するカギとなる、ということになります。適切な照明設計、最適なカメラ配置、対象物に応じた撮像条件の設定。これらの要素が組み合わさることで、初めてAIは本来の性能を発揮できます。
運用時には全てをAI任せにせず、確実なルールベースと柔軟なAIを組み合わせます。明確な基準で判定できる項目、たとえば、寸法測定や色の数値判定などはルールベースで処理し、表面の質感、複雑な形状の良否など微妙な判断が必要な領域にはAIを投入するというものです。
このハイブリッド運用による恩恵は、たとえ難易度の高い検査であっても経験の浅いスタッフがベテラン同等の判断を下し、一定品質の判定ができる体制の実現にあります。これをたとえるなら、一部の専門家以外の人たちにもAIの恩恵が届くようになった『AIの民主化』になぞらえて、『検査の民主化』と言ってもいいかもしれません。新人検査員が自信を持って検査業務に取り組める環境は、人材育成期間の短縮という効果も期待できるでしょう。
AI導入を成功させるための重要なこととして、いきなり全てを刷新するのではなく、以下のような段階的なアプローチを踏むことが挙げられます。
たとえば、同一サンプルを複数の検査員に判定してもらうなどの実証実験を行うことで、検査員ごとのバラつきをデータで可視化することができるようになります。こうした作業を通じて会社として統一された判定基準を明文化し、組織としての「正解」を再定義し、AI検査の土台を築きます。
AIの性能を100%引き出すために、検査対象物の材質、形状、欠陥の種類や大きさに応じた最適な光学系機器(カメラ、レンズ、照明など)の選定を行います。こうした環境下で撮像された画像の品質が、AI判定における精度の上限を決定することとなります。
前述のハイブリッド運用の延長線上で、AIが判定に迷ったものだけを人が最終確認するという協調体制化の「半自動化」を進めます。このような段階を踏み、現場におけるAIへの信頼性を高めます。
AI戦略の真の目的は、人が「単純な判定作業」から解放され、より創造的な「品質改善活動」に注力できる環境を作ることにあります。AI技術が浸透した検査環境下において、検査員はAIでは判断しきれない複雑な判断や、不良原因の分析、製造工程へのフィードバック、新製品の検査基準策定といった、より高度な業務に時間を使えるようになるのです。
ただし、その場合は、単にAI機能を備えた検査機器を導入すれば済むというわけではありません。現場の課題を理解し、撮像環境の構築からAIモデルのチューニング、運用体制の確立までを包括的に進めるのがいちばんの近道です。ヴィスコ・テクノロジーズには、これまでに培った「画像一筋」の知見があります。現場に眠るノウハウを、未来に繋がる「デジタル資産」へと昇華させる伴走をいたします。
品質は、人とAIの協働で、さらなる高みに達することができます。熟練工が長年培ってきた貴重な技術を「属人化リスク」のままにしないこと。デジタル資産として次世代に継承することが、人手不足というピンチを品質向上のチャンスに変えることにつながるかもしれません。
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